コネクタテレビとは、アートや文化の現場にいろんなカタチで関わる様々な人々の動きを紹介していく番組です。
大阪市文化振興事業実行委員会が1999年に発刊したフリーペーパー「C/P(カルチャーポケット)」の編集を務めた餘吾康雄さんに、この冊子の制作背景を聴く。
企画:NPO recip・下田展久 撮影:丸井隆人 野添貴恵 編集:加藤文崇
僕にとって、C/P(カルチャーポケット)はちょっと思い出のあるフリーペーパーです。たしか2003年、当時C/Pを発行していた大阪市の方から連絡がありました。C/Pでできることは結構やったので紙媒体以外での情報発信について勉強会を主宰して欲しいとのこと。 2ヶ月に一度、六万部を発行しているというのも印象的でしたが、さらにこの内容の冊子を行政組織が発行しているというのも、なんだかうれしい驚きでした。当時は啓蒙的なメディアがいろいろありました。芸術論、文化論といった「論」を語ることができるメディアです。語ることで何かを変えて行こうという気概を感じるような文章もたくさんありました。たくさんあった気がするのですが、しかし行政が発行するものとしてはなかった。啓蒙的な文言というのはその時点で少数派であるけれど未来に向けて自分のビジョンをより多くの人に共有してもらい、あるいは意識してもらいたいがために存在するとして、一方で行政が市民の税金で伝えることは、既に多数が何の疑いもなく受け入れられるような事柄を知らせる、周知を図るという目的で行われるものだと思っていたのです。つまり論を語ることはせず、情報を知らせるということに留まるものだと思っていましたから、C/Pを読んでびっくりしたわけです。 C/Pでは、美術や音楽やダンスなど、専門的な仕事をしている個人がそれぞれ個人的な論をそれぞれの言葉で語っている記事が多く見受けられました。専門性の高い個人が自分の言葉で語る、そういうフリーペーパーということも今考えると相当重要なことのような気がします。ここで読まれることは、文化政策的なことでもなく、もっと個別的、具体的な、その語られている現場が読者の日常のすぐ隣にあるということが、感じられるようなものでした。 情報発信の勉強会は、一年くらい続いたでしょうか。僕にとってこの勉強会の目的は、紙以外でC/Pを展開するにはどんな方法がよいかを考えるということでした。フリーペーパーはちょっと興味を持った人が気軽に手にとってパラパラと電車の中とかで読んでみる、そんなメデイアですが、もっと生活で使い古されたメディアが使えたら、受け手の側にさらに広がりが生まれるのではないかと考えました。当時、もちろんインターネットは既に注目されていましたがお茶の間的なものではなかった。それでスイッチをいれたら勝手にコンテンツが流れ出すテレビみたいなものが面白いじゃないか、と考えたのです。当時テレビ放送は各局がデジタル放送の実験を開始していました。 漫画みたいな話ですが、勉強会の結果生まれて来た案としてまずテレビ局を作るということ。大阪市の文化チャンネルです。これは企画が大きすぎて無理。次の案は深夜の枠を既存局で買うというものでしたが、これは各局が深夜枠をデジタル放送の実験に使っていて無理。結局大阪市も出資していたケーブルテレビの枠を使って、コネクタテレビはスタートしました。その後、事業母体となってくれていた大阪都市協会が解散することになり、コネクタテレビはインターネットをインフラにした現在の形になっていきました。C/Pが終了したのもちょうどこの時期でしたね。 情報化の時代というフレーズも相当陳腐化してきた昨今、僕らの生活は確かに色々な情報がものすごいスピードで手に入る、あるいは重要度に関係なく色々な情報が自分に向かってくるような時代になりました。しかし、自分のなかで咀嚼すべき「論」と出会う機会は減って来たように感じます。人の語った「論」を咀嚼し自分の言葉を改めて語る。こういった行為を市民が行なっている社会にこそ、滋養のある芸術や文化といったものは育っていくと考えるとしたら、C/Pの時代と比べて今の社会はよくなったのか? コネクタテレビの製作母体であるnpo recipにはC/Pを作っていた人がいるので、このフリーペーパーのことをもう一回考えてみたくなりました。番組の中では語られていませんが、打ち合わせをしていて、C/P時代の人脈や事業が形を変えながら今の大阪に広がっていることを実感しました。それもC/Pが育てたもののひとつであることは間違いないのでしょう。今回もまた、番組制作を通じていろいろなことを考えてしまいました。